税理士試験の受験を検討している方は、どの科目を選ぶのがよいか分からない方は少なくないのではないでしょうか。 本記事では、税理士試験の概要を伝えた上で、科目の選び方を解説していきたいと思います。

 

税理士試験の概要

 まず、税理士試験の概要を見ていきましょう。

【概要①】試験科目

 税理士試験は、複数の科目で構成されており、会計に関する2科目と、税法に関する3科目の合計5科目に合格する必要があります。

 ここでいう会計とは、企業等が行う経済活動を記録・測定・伝達するための手段のことを指します。
 また、税法とは、税金をどのように課したり徴収したりするか等が定められている法律のことをいいます。税理士は、税金の専門家であるため、税法に関する知識は欠かせません。

 ではなぜ、税理士試験では税法だけでなく会計についても出題されるのでしょうか。それは、企業の財務会計と税金が、密接に結びついているためです。

・財務会計とは

 日々の営業活動の数値を記録する管理会計と、数字をまとめ決算書を作成する経理を総称したものを指します。

会計科目と税法科目

 次いで会計と税法、それぞれの科目についてみていきましょう。

■会計科目
 会計科目は、簿記論と財務処方論の2科目です。いずれも必修科目なので、税理士試験に合格するためには、簿記論と財務諸表論は避けて通れません。

■税法科目
 税法科目は、法人税法、所得税法、相続税法、消費税法、酒税法、国税徴収法、住民税、事業税、固定資産税の9科目です。
 法人税法と所得税法から1科目、相続税法、消費税法、酒税法、国税徴収法、住民税、事業税、固定資産税から2科目を選択しなければなりません。但し、消費税と酒税法はいずれか1科目、住民税と事業税もいずれか1科目しか選択出来ないという指定があります。

【概要②】日程

 税理士試験は、例年8月上旬に3日間実施されます。  2020年の税理士試験は、以下の日程で実施されました。

日程

時間

科目

818日(火)

9:0011:00

簿記論

12:3014:30

財務諸表論

15:3017:30

消費税法または酒税法

819日(水)

9:0011:00

法人税法

12:0014:00

相続税法

15:0017:00

所得税法

820日(木)

9:0011:00

固定資産税

12:0014:00

国税徴収法

15:0017:00

住民税または事業税

【概要③】受験料

 受験料は、受験する科目数に応じて変動します。 1科目…4,000円 2科目…5,500円 3科目…7,000円 4科目…8,500円 5科目…10,000円  受験する科目数が多ければ多いほど、費用を抑えられます。

【概要④】受験資格

 税理士試験には受験資格があります。
 受験資格は、学識、資格、職歴、認定の4種類に分けられています。いずれか1つに該当すれば税理士試験の受験が可能です。
 それぞれの主な受験資格は以下の通りです。

■学識 ・大学や短大、高等専門学校、専修学校で、法律学あるいは経済学に関する科目を1科目以上履修した者 ・司法試験に合格した者 ・公認会計士試験短答式試験合格者
■資格 ・日商簿記検定1級合格者 ・全経簿記能力検定上級合格者 ・会計士補
■職歴 ・法人または個人の会計事務に2年以上従事した者 ・税理士、弁護士、公認会計士などの補助業務に2年以上従事した者 ・税務官公署での事務、またはその他の官公署での国税あるいは地方税に関する事務に従事 ・銀行や信託会社、保険会社等で、資金の貸付、運用事務に2年以上従事した者
■認定 ・国税審議会から受験資格に関して個別認定を受けた者

 

科目の選び方

 税理士科目は何を基準に選ぶのがよいのか分からない方も少なくないのではないでしょうか。  会計科目は必修科目になっており、選択の余地がありません。 ですので、ここでは、税法科目の選び方をお伝えします。

【選び方①】実務を意識した科目選び

 税理士試験の科目は、それぞれ出題内容が異なります。そのため、活かせる実務も異なります。  ここでは、実務を意識した科目選びをお伝えします。

法人相手の実務

 法人相手の事務を意識する場合は、その名の通り法人税法を選択しましょう。また、法人を顧客と考えた場合、消費税法、事業税の選択が実務に大きく活かせるでしょう。

資産税中心の実務

 税務において資産税は専門性が高いです。ですので、資産税に関する知識を持っていると大きな武器になります。  資産税にまつわる科目は、相続税法と所得税法、固定資産税です。

実務全般

 実務全般の知識を身につけるのであれば、国税に該当する、所得税法、法人税法、相続税法、消費税法、国税徴収法から3科目を選択するとよいでしょう。  但し、国税に該当する科目はいずれも出題範囲が広いです。十分な勉強時間が確保出来ない方には、オススメ出来ません。

【選び方②】受かりやすい科目選び

次いで、受かりやすい科目選びをお伝えします。  受かりやすさは、、次の3つが指標になります。

難易度

 難易度を基準に考える場合、酒税法と国税徴収法を選択することをオススメです。 酒税法と国税徴収法は、試験範囲が広くない上に、出題内容に偏りがあり合格ラインへの到達が早いのです。  但し、国税徴収法は理論的な問題が多いので、理論が苦手な人は避けた方がよいです。

合格率

 合格率も、受かりやすさの指標になります。令和元・2年度の税法科目の合格率は以下の通りです。

科目

受験者数

合格者数

2年度合格率

元年度合格率

所得税法

 1,437

 173

 12.0%

12.8%

法人税法

 3,658

 588

 16.1%

14.7%

相続税法

 2,499

264

10.6%

11.7%

消費税法

 6,261

 782

12.5%

11.9%

酒税法

446

 62

13.9%

12.4%

国税徴収法

 1,629

198

12.2%

12.7%

住民税

 381

 69

18.1%

19.0%

事業税

335

44

13.1%

14.8%

固定資産税

874

118

13.5%

13.7%

引用元:https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishishiken/shikenkekka/70/kekka.htm

  上記を見ると、固定資産税は、法人税や住民税、事業税は比較的高い合格率で推移しています。とりわけ、住民税は頭一抜けた合格率です。
 合格率を基準で考える場合、住民税を選択するとよいでしょう。

受験者のレベル

 受験者のレベルを、受かりやすさの指標にするのも一手です。

 税理士試験の科目合格の基準は、相対評価です。上位にレベルの高い受験者が多いと、それだけ合格率が下がります。
 受験者のレベルが高いと、合格難易度も高くなるのです。 合格難易度が高くないのは、受験者のレベルにバラつきが起こると考えられる受験者数が多い科目です。
 例年、受験者が多いのは消費税法と法人税法です。 受験者レベルを基準に受かりやすい科目選びをするなら、消費税法と法人税法がオススメでしょう。

【選び方③】就転職先から評価されやすい科目選び

 就転職先から評価されやすい科目選びも一案です。評価が高い科目は、以下の通りです。

法人税法

 法人税は、国税収入額の中で2番目に多い税です。会計事務所では法人税に関する知識は重宝されます。

所得税法

 所得税は国税収入額がトップです。それだけに、所得税法に関する業務が多いです。所得税法に合格していると評価は高いと言えるでしょう。

消費税法

 消費税法は、法人をメイン顧客に抱える会計事務所や、相続に強い会計事務所で評価が高いです。
 ですので、そのような会計事務所への就転職を目指す方は、消費税法を選択するのがベターです。

相続税法

 相続税に特化した会計事務所では、相続税法の科目合格は評価が特に高いです。それだけでなく、実務で活かせる機会も増えているので、会計事務所界隈で相続税に関する知識を持っていると重宝されます。

固定資産税

 相続関連業務のニーズの高まりに伴い、評価が高くなっている科目が固定資産税です。  固定資産税に関する知識は、地主の相続・不動産オーナーの財産承継等の業務に欠かせないためです。