“士業”とは、広い定義では「〇〇士」という名称がつく国家資格保持者のことを指し、高度な専門性がある職業です。
医療・福祉系の救急救命士や介護福祉士等も含めて士業と呼ばれることもありますが、一般的には、法律や会計の分野に携わる国家資格保持者のことを指すことが多いです。
法律・会計系の士業は以下のものがあります。
弁護士・弁理士・司法書士・行政書士・公認会計士
税理士・社会保険労務士・中小企業診断士・不動産鑑定士
不動産鑑定士・土地家屋調査士・海事代理士
それらの中で、ここでは弁護士・弁理士・司法書士・公認会計士・税理士・行政書士・社会保険労務士・土地家屋調査士への転職に必要な経験・資格・試験にフォーカスします。
弁護士
弁護士は、法律の専門家です。
社会生活の中では、様々な争いごとや法律上の問題が起こることがあります。しかし一般人にとって、法律は難しく対処しにくいものです。
そこで法律の専門家である弁護士が、様々なトラブルに対しての予防方法やアドバイス、法的手続を行い問題解決に向けてサポートします。
弁護士になるために必要な経験・資格・試験
大学(法学部)大学(法学部) | 大学(法学部を除く) | 司法試験予備試験 | |
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法科大学院【2年制】(既修) | 法科大学院【3年制】(未修) | ||
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司法試験 | |||
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司法修習(1年) | |||
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弁護士(検事・裁判官) |
弁護士になるためには、まず法科大学院(ロースクール)を修了する必要があります。法科大学院を修了することで司法試験を受験する資格が与えられるのです。そして試験合格後、司法研修所で1年間の司法修習を修了することでようやく弁護士になれます。
ちなみに検事と裁判官も、この司法修習を修了することでなることが可能です。
また、法科大学院(ロースクール)を修了しなくとも、司法試験予備試験に合格することで、司法試験を受けることは可能です。司法試験予備試験には受験資格はないため、誰でも受験することが出来ます。
弁理士
弁理士は、特許等の知的財産を権利化するサポートを主な仕事としています。知的財産の権利化には特許庁への出願が必要ですが、手続は非常に複雑です。
そこで知的財産権に関する知識が豊富な弁理士が、出願者の代理人となり、有利な権利が取得出来るように手続を進めます。
弁理士になるために必要な経験・資格・試験
弁理士試験 | 弁護士 | 特許庁の審査官補として4年間の経験 |
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特許庁の審査官または審判官として7年以上の経験 | ||
↓ | ||
弁理士 |
弁理士になるためには、弁理士試験に合格する必要があります。司法試験のように受験資格に制限がないため、弁理士試験は誰でも受験することが可能です。
その他にも弁理士になるためには方法が2つあります。
1つは弁護士が弁理士として登録を行う方法です。
もう1つは、弁理士の仕事に密接な関わりがある特許庁の審査官や審判官として通算7年以上の経験を積む方法です。ただし、審査官や審判官になるためには審判官補として4年の経験が必要のため最短でも11年かかります。
司法書士
司法書士は 個人や企業等に依頼される、法律に関する書類作成や法的手続を代行する仕事をメインにしています。
司法書士になるために必要な経験・資格・試験
司法書士試験 | 裁判所事務官の実務経験(10年以上) | 検察事務官の実務経験(10年以上) |
↓ | ||
司法書士 |
司法書士という職業に就くためには、司法書士試験に合格する必要があります。受験資格は設けられていないため、誰でも受験することが可能です。
また、司法書士試験に合格しなくても司法書士になれる方法があります。
それは、裁判所事務官もしくは検察事務官を10年以上勤めることです。10年以上の実務経験を積むことです。
公認会計士
公認会計士の代表的な仕事は「監査」です。
日本の数ある会社の中で、上場企業や資本金が5億円以上ある大企業は、法律に沿った経営をしているかどうかのチェックを受けなければなりません。そしてこのチェックのことを監査と呼んでいます。
公認会計士が行う監査は、企業の収入や支出を記録した財務書類を調べ上げ、その内容に間違いがないかどうかを洗いざらいチェックします。
公認会計士になるために必要な経験・資格・試験
公認会計士試験 |
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監査法人や会計を専門的に行っている企業で実務経験2年以上 |
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修了考査(筆記試験) |
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公認会計士 |
公認会計士になるためには、公認会計士試験に合格しなければなりません。試験は、年齢や学歴に関係なく誰でも受験することが出来ます。
ただし、試験に合格するだけでは公認会計士にはなれないのです。試験合格後に2つのステップを踏まなければなりません。
1つ目のステップは、現場での業務補助を2年以上経験することです。監査法人(公認会計士が5人以上集まり設立する法人)や会計を専門的に行っている企業に就職し、実際の仕事をする中で公認会計士としての知識や技術を身につけます。
2つ目のステップは日本公認会計士が行う修了考査(筆記試験)に合格することです。
以上2ステップを踏むことで、晴れて公認会計士として働くことが出来ます。
税理士
税理士は、個人や企業の税金に関するサポート業務が主な仕事です。
日本国民には所得税や法人税、消費税等、様々な税金を納税しなければならない義務があります。これらの税金が円滑に納められるように補助するのが税理士の仕事です。
税理士になるために必要な経験・資格・試験
一定の受験資格を満たす | 税務署をはじめとした国税官公署で23年以上従事 | 弁護士・公認会計士 |
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税理士試験 | 研修 | |
↓ | ↓ | |
税務に関して2年以上携わったことがあるという実務経験 | ||
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税理士 |
税理士になるためには税理士試験に合格しなければなりません。試験には受験資格が設けられており、以下のいずれか1つを満たしていれば税理士試験を受けることが出来ます。
■税理士試験の受験資格
・大学または短大の卒業者で、法律学または経済学を1科目以上履修
・大学3年次以上で、法律学または経済学を1科目以上含む62単位以上を修得
・専修学校の専門課程(修業年限が2年以上かつ課程の修了に必要な総授業時間数が1,700時間以上)を修了し、法律学または経済学を1科目以上履修
・日商簿記検定1級合格
・全経簿記検定上級合格
・法人または事業を営む個人の会計に関する業務に2年以上従事
・銀行、信託会社、保険会社等において、資金の貸付、運用に関する事務に2年以上従事
・税理士、弁護士、公認会計士等の業務補助に2年以上従事
ただし、試験に合格しただけでは税理士になることは出来ません。税務に関する2年以上の実務経験を積むことで税理士として働くことが可能になります。
ただし、その実務経験は試験の合格前と後、どちらでも問わないとされています。そのため、税理士試験を受ける前から、既に税務に関する実務を2年以上積んでいるようであれば、合格後に改めて実務経験をすることなく、税理士になることが可能です。
以上の方法の他にも、税理士になることは可能です。
税務署・都道府県税事務所・市区役所・町村役場の税務課で23年以上働き、指定の研修を受けることで税理士資格を取得出来ます。
また、弁護士と公認会計士も、税理士として働くことが出来ます。これは弁護士と会計士が、税理士としての知識を有していると見なされているためです。
行政書士
行政書士は、個人や企業から依頼された官公署(各省庁・都道府県庁・市区役所・町村役場・警察署等)に提出する書類の作成・申請を代行する仕事がメインです。
行政書士になるために必要な経験・資格・試験
行政書士試験 | 弁護士・弁理士・公認会計士・税理士 | 国や地方の公務員・特定独立行政法人の職員として行政事務を17年以上経験 |
↓ | ||
行政書士 |
行政書士になるためには、行政書士試験に合格する必要があります。この試験は誰でも受験することが可能です。
また、上記の同様な理由から、弁護士・弁理士・公認会計士・税理士は無試験で行政書士の資格を取得出来ます。
さらに、国・地方の公務員、あるいは国立公文書館や統計センター等の特定独立行政法人の職員として17年以上の行政事務を経験していれば行政書士として働くことが可能です。
社会保険労務士
社会保険労務士は社会保険や労務等、法的に複雑なものを専門的な知識を生かして、企業が法律に沿って雇用を適切に管理出来るようにサポートしたり、年金や労働に関する個人からの相談に乗ったりします。
社会保険労務士になるために必要な経験・資格・試験
一定の受験資格を満たす |
↓ |
社会保険労務士試験 |
↓ |
2年以上の実務 |
↓ |
社会保険労務士 |
社会保険労務士になるためには、社会保険労務士試験に合格しなければなりません。この試験を受験するためには以下のいずれか1つを満たしている必要があります。
■社会保険労務士の受験資格
・大学、短期大学、高等専門学校の卒業
・大学、高等専門学校で62単位以上の修得
・修業年限2年以上で、かつ、課程修了に必要な総授業時間数が1,700時間以上の専修学校の卒業
・司法試験または司法試験予備試験の合格
・行政書士試験の合格
・厚生労働大臣が認めた国家資格の合格(詳しくはこちらをご参照下さい)
・社会保険労務士や弁護士の業務補助に通算3年以上従事
・国や地方公共団体の公務員として行政事務に通算3年以上従事
・労働社会保険諸法令の規定に基づいて設立された法人の役員や従業員として実地事務に通算3年以上従事
以上が主な受験資格対象者になります。その他の対象はこちら「社会保険労務士試験の受験資格」をご覧ください。
なお、試験合格後すぐに社会保険労務士になれるというわけではありません。労働社会保険諸法令についての実務を2年以上経験することで、ようやく社会保険労務士として働くことが出来ます。
土地家屋調査士
土地家屋調査士のメインの仕事は登記手続きです。
登記手続きには、不動産の表題登録に必要な測量をしたり、図面を書いて登録申請書を書いたり等の作業があります。
他者から依頼を受けて不動産の表題登録を行うことが出来るのは、土地家屋調査士のみのため、独占業務として認められています。
土地家屋調査士になるために必要な経験・資格・試験
筆記試験 |
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口述試験 |
↓ |
土地家屋調査士 |
土地家屋調査士になるためには、筆記試験に受かったのち、口述試験に合格する必要があります。
まとめ
ここでご説明させていただいた士業の中には、資格試験を受けるためにある一定の経験・職歴等を有していなければならない必要があります。そのため、資格の取得まで多くの時間を費やさなければなりません。
一方で、公認会計士・税理士の資格を持っていれば行政書士になれたり、検察事務官を10年以上従事していれば司法書士になれたり等、試験を受けずとも資格を取得出来るケースもあります。
本記事を転職する際の参考にしてみてください。