企業を繁栄させるために、人材確保は命題と言っても過言ではありません。中でも、採用面接は最も注力しなければならない活動です。
 ですが、そのあまり応募者に行き過ぎた質問をしてしまう面接官は少なくありません。

 会社は応募者を見極めるために面接を行いますが、同じように応募者も会社を見極めている、ということを忘れてはなりません。
 採用面接では、応募者からの評価が下がらないよう適切な質問をすることも求められているのです。

 そこで今回は採用面接時に、面接官が応募者に聞いてはいけない質問について触れていきたいと思います。

 

質問で心かけるべきこと

 企業が応募者に質問をする際は、質問内容を慎重に選ばなければなりません。その際は下記2つを心がける必要があります。

①応募者の基本的人権を尊重する
②業務に対しての適正と能力のみを見て選考する

 1つずつ深掘りしていきましょう。

①応募者の基本的人権を尊重する

 応募者の基本的人権を尊重することについては、厚生労働省・熊本労働局が公表している「公正な採用選考のために」に詳しく解説されています。
 そこでは、下記のように明記されています。

日本国憲法は、全ての人に職業選択の自由を保障しています。また企業にも採用の自由が認められています。しかし、だからといって企業が採用選考時に何を聞いても何を書かせてもよいというものではありません。応募者の基本的人権を侵かしてまで、採用の自由は認められているわけではありません。

引用元:https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/riyousha_mokuteki_menu/zigyounusi/kose-saiyou.html

 つまり、企業は<span class="fw-bold">面接で応募者の人権を侵すような質問をしてはならないのです。</span>たとえ、雰囲気を和らげる目的だとしても、人権を侵してはなりません。

②業務に対しての適正と能力のみを見て選考する

 企業は、採用の可否をする際、応募者の業務に対する適正と能力のみを見て選考しなければなりません。決して、業務と無関係な情報を元に採用の可否を判断してはならないのです。
 ではなぜ、業務と無関係な質問をしてはいけないのでしょうか。それは下記の職業安定法第五条の四を見るとわかります。

職業安定法第五条の四

①公共職業安定所等は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その②業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

 ①の「公共職業安定所等」は、ハローワークだけでなく企業も含まれます。そのため、企業の採用面接においても、上記の規定を遵守しなければなりません。
 また、②では「業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。」と定められています。
 これは、「業務の目的の達成に無関係な情報は収集する必要がない」と解釈することも出来ます。

 つまるところ、企業の採用面接では応募者の業務に対する適正と能力のみを見て選考しなければならないと、いうことがこの規定から言えるのです。

 

聞いてはいけない質問

 「①応募者の基本的人権を尊重する」「②業務に対しての適正と能力のみを見て選考する」から逸脱した質問は避けなければなりません。では具体的に①②から逸れた、聞いてはいけない質問とは何なのでしょうか。
 大きく次の4つに分けられます。

【1】本人に責任のないこと
【2】本人の自由であるべきこと
【3】男女雇用機会均等法に違反する内容
【4】プライバシーの侵害に当たること

の4つに分けられます。1つずつご説明させていただきます。

【1】本人に責任のないこと

 面接に訪れる応募者は緊張している方が多いです。面接官は少しでも緊張を和らげようと業務と無関係な質問をしてしまいがちです。天気の話等、当たり障りのない質問なら問題ありませんが、つい応募者のプライベートを聞いてしまう面接官が少なくありません。
 とりわけ、下記のような「本人の責任にないこと」を質問する人は問題です。

①「本籍・出生地」に関すること
②「家族」に関すること(職業・続柄・健康・地位・学歴・収入・資産等)
③「住宅状況」に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設等)
④「生活環境・家庭環境等」に関すること

 それぞれ見ていきましょう。

【責任ない①】「本籍地・出生地」に関すること

 本拠地や出世地に関する質問はNGです。
 通勤経路の把握等をするために、現住所について詳細に聞いたり、略図を書かせたりことがありますが、それは採用決定後に把握する内容です。面接のような選考段階で必要はないのです。
 具体的に以下の質問はしないでください。

・本拠地(出身地)はどこですか?
・生まれてから、ずっと現住所に住んでいるのですか?
・あなたのお父さんやお母さんの出身地はどこですか。
・お父さんは、はじめからそこに住んでいるのですか?
・どこから引越ししてきたのですか?
・あなたの自宅付近の略図を書いてくれますか?
・あなたの自宅付近の目印となるものは何ですか?バス停はどこですか?
・自宅は〇〇町のどのあたりですか?
・通勤は自宅からですか?
・お住まいの地域は、どんな環境ですか?
・自宅は国道○○号線(○○駅)のどちら側でしょうか?

【責任ない②】「「家族」に関すること(職業・続柄・健康・地位・学歴・収入・資産など)

 家族に関することは、本人の努力によって解決出来ない内容です。にも関わらず、家庭の生活水準等を聞いて、採用の可否の決めることは偏見に繋がりかねません。
 たとえ、採用決定の基準にしないとしても、住宅環境や家庭の状況は応募者によって答えにくい場面があり、応募者を精神的に苦しめる可能性があります。その心因的な打撃は面接時の態度にも現れます。その姿を見て合否を出すのは、公平性に欠くとも言えます。

 ですので、下記のような家族に関する質問はNGです。

・お父さん(お母さん)はどちらの会社に勤めていますか?
・お父さん(お母さん)の役職は何ですか?
・お父さん(お母さん)の収入はいくらですか?
・実家の家業は何ですか?
・兄弟(兄弟)は何人いますか?
・お兄さんは何をしていますか?
・家族構成を教えてください。
・お父さん(お母さん)がいないようですが、どうしたのですか?
・お父さんが義父となっていますが、詳しく教えてもらえますか?
・あなたの家庭の雰囲気はどうですが、明るいですか?
・あなたの家庭は円満ですか?
・親子の話し合いは十分にされていますか?
・両親(父親・母親)はどんな人ですか?
・兄弟(姉妹)はどこの学校へ行っていますか?
・両親の学歴を教えてください。
・保護者の欄がお母さんとなっていますが、お父さんはどうしたのですか?
・お父さん(お母さん)の死因は何ですか?
・保護者があなたの名字と異なりますが、どうしてですか?
・学費は誰が出しましたか?
・ご両親は共働きですか?
・学費は誰が出しましたか?
・家庭はどんな雰囲気ですか?

【責任ない③】「「住宅状況」に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など) 

 下記に列記した家の間取りや部屋数等に関する質問も本人に責任がありません。

・家は持ち家と借家どちらですか?
・自分の部屋はありますか?
・あなたの部屋はどれくらいの広さですか?
・住んでいる家は一戸建てですか?
・あなたの家の耕地面積はどれくらいですか?
・あなたの住んでいる家や土地は自分のものですか?
・あなたが住んでいる家の部屋数はいくつですか?
・あなたの家の不動産(田畑・山林・土地)はどれくらいありますか?

 これらの質問は、本人や家庭の経済状況によって左右します。経済状況は業務内容に無関係なもののため、聞くべきではありません。

【2】本人の自由であるべきこと

 本人の自由であるべきことについては下記が挙げられます。

⑴「宗教」に関すること
⑵「支持政党」に関すること
⑶「人生観・生活信条など」に関すること
⑷「尊敬する人物」に関すること
⑸「思想」に関すること
⑹「労働組合(加入状況や活動歴など)」、「学生運動などの社会運動」に関すること
⑺「購読新聞・雑誌・愛読書など」に関すること

 以上は、憲法で保障されている個人の自由権に属する内容です。にも関わらず、個人の自由であるべきことを様々な形で質問し、採用選考をする際の判断材料にすることは基本的人権の侵害に他なりません。
 例えば、次のよう質問が人権侵害になるおそれがあります。

⑴「宗教」に関すること

・家の宗教は何宗ですか?
・神様や仏等の存在を信じますか?
・何教を信仰していますか。

⑵「支持政党」に関すること

・政治や正当に関心はありますか?
・どこの政党を支持していますか?
・あなたの家庭は何党を支持していますか?
・現在の社会や政治についてどう思いますか?

⑶「人生観・生活信条など」に関すること

・あなたの信条としている言葉は何ですか?
・自分の生き方についてどう考えていますか?
・あなたの人生観を教えてください。

⑷「尊敬する人物」に関すること

・尊敬する人物を教えてください。

⑸「思想」に関すること

・元号や西暦表記についてどう考えていますか?

⑹「労働組合(加入状況や活動歴など)」、「学生運動などの社会運動」に関すること

・学生運動をどう思いますか?
・何かの社会運動などに参加したことはありますか?
・労働組合をどう思いますか?
・学校外での加入団体を教えてください。

⑺「購読新聞・雑誌・愛読書など」に関すること

・どんな本を愛読していますか?
・何新聞を購読していますか?

【3】男女雇用機会均等法に違反する内容

 男女雇用機会均等法に違反する内容も質問してはなりません。

 男女雇用機会均等法では、募集・採用にあたって男女で異なる取り扱いをすることが禁止されています。例えば、女性に限り結婚や出産後も就業を継続するかどうかに関する質問が挙げられます。また、男性に対しては、幹部候補になる意欲があるかどうか等の質問が挙げられます。

 これらのように、男女いずれか一方の性に対してのみ一定の質問をすると、男女雇用機会均等法に違反するおそれがあります。
 既述した例も含め、下記に列挙した質問が男女雇用機会均等法に違反する可能性があります。

・結婚の予定はありますか?
・結婚、出産したとしても働き続けますか?
・何歳ぐらいまで働けますか?
・幹部候補になることも考えていますか?

【4】プライバシーの侵害に当たること

 交際相手に関すること等を質問するのは、プライバシーの侵害に当たる可能性があります。
 主に以下の質問がプライバシーの侵害に当たる可能性があります。

・彼氏(彼女)はいますか?
・当社に知人はいますか?その人とはどのような関係ですか?
・なぜ大学に行かないのですか?
・血液型・星座は何ですか?
・短所は何ですか?

 

応募者に悪印象を与えてしまう質問

 さて、これまでは法律等に基づいて「質問してはいけない内容」について見てきましたが、応募者は面接官からの質問に対してどのような感想をお持ちなのでしょうか。
 応募者に悪印象を与える質問が以下のデータを見ると分かります。

(男性の場合)

Q.面接で「この質問、必要なのか?」とうたがってしまうものを教えてください(複数回答)

1位 彼氏(彼女)はいますか? 23.3%
2位 親の職業は? 22.1%
3位 あだ名は? 17.3%
4位 休日は何をして過ごすの? 16.6%
5位 血液型は? 16.1%

引用元:http://news.mynavi.jp/c_cobs/enquete/realranking/2012/07/30_1.html

(女性の場合)

Q.面接で「この質問、必要なのか?」とうたがってしまうものを教えてください(複数回答)

1位 彼氏(彼女)はいますか? 25.2%
2位 親の職業は? 23.3%
3位 両親は何歳ですか? 17.1%
4位 血液型は? 16.8%
5位 いくつで結婚したいですか? 13.4%

引用元:http://news.mynavi.jp/c_cobs/enquete/realranking/2012/07/30_2.html

 交際相手の有無や両親の職業等、NG質問で挙げられている質問が上位にランクインしています。もし場を和ませるために雑談をしたいのであれば天気の話等差し障りない内容を聞くのがベターと言えるでしょう。

 

まとめ

 面接で応募者に質問をする際は「応募者の基本的人権を尊重する」「業務に対しての適正と能力のみを見て選考する」の2つを心得ておきましょう。
 それを無視した質問をすると、応募者から悪印象を与えるおそれがあります。そうならないためにも、あらかじめ面接で質問する内容をリスト化し、それ以外の質問はしないようにすることが肝心です。

 ぜひ、本記事を参考に質問内容のリスト化をし、聞いてはいけないことを質問しないようにしてください。