税理士になるためには、税理士試験で5科目合格する必要があります。一方で、5科目未満の合格者で税理士を名乗れないものの、会計事務所等で活躍している人がいます。 そう、税理士科目合格者です。 本記事では、税理士科目合格者の転職についてお伝えします。
税理士科目合格者とは
税理士科目合格者を説明するまえに、税理士試験について触れていきます。
税理士試験は、「簿記論」「財務諸表論」の必修2科目と、「法人税法」「所得税法」のいずれか1科目、「相続税法」「消費税法」「酒税法」「国税徴収法」「住民税」「事業税」「固定資産税」の中から2科目、合計5科目を選択して受けます。
5科目を合格すれば、税理士として従事することが出来ます。
但し、税理士試験は、1回の試験で5科目を合格する必要はありません。複数回、税理士試験を受けて、通算で5科目を合格すれば、税理士のなれるのです。
科目別の合格率は10~20%と低い水準で推移しており、税理士試験は難関で知られています。そのため、既に数科目合格している受験者が多くいます。
そのような、税理士試験の数科目合格している者のことを、税理士科目合格者と呼んでいます。
科目合格者は転職に有利
税理士科目合格者は、転職に有利になるケースがあります。
税理士や公認会計士が開業している会計事務所・税理士事務所や、一般企業の経理は、税務等の知識やスキルが求められます。
税理士科目合格者は、数科目に合格しているだけに、そのような職種で十分に生かせる税務知識を持っています。そのため、税理士科目合格者は転職に有利なのです。
【科目別】転職に有利な職種
では、どの科目に合格していると転職に有利なのでしょうか。科目合格していると転職に有利になるのは会計事務所だけではありません。合格している科目によって有利になる職種が異なります。
ここでは、科目別に、転職に有利になる職種を紹介します。
簿記論・財務諸表論
簿記論あるいは財務諸表論に合格をしていると、決算書の作成や分析業務を行うことが出来ます。そのため、会計・財務の専門知識の保有者として、一般企業の経理・財務部門への転職に有利になります。
また、簿記論の科目合格は、経理職への転職に有利な資格になると言われている日商簿記1級と同等の価値があります。 簿記論に科目合格している人は、経理への転職を目指す際、日商簿記1級の取得をする必要はないと考えられます。
所得税法・法人税法
所得税法と法人税法に合格していると、確定申告の代行業務を多く引き受けている会計事務所への転職に有利になります。
また、一般企業は、法人化している以上、毎年必ず法人税の申告業務を行わなければなりません。そのため、法人税法に科目合格している人は、一般企業に重宝される傾向にあります。
相続税法
相続税法に合格していると、不動産や株式等の資産管理・成年後見を行う会計事務所への転職に有利になります。というのも、例えば、クライアントに節税対策を提案する際、相続税の知識を有した人材がいると会計事務所にとっては大きな力になるためです。
税理士事務所への転職成功事例
ここでは、税理士科目合格者の転職成功事例をご紹介します。 【一般事業会社経理から税理士事務所への転職】
大学卒業後に一般事業会社に就職し、経理部門に配属されたTさん。業務に役立つからと簿記の勉強をしていく中で、さらに一歩踏み込んで税理士試験を目指すことを決断しました。
そして、簿記論と財務諸表論の2科目合格時点で30歳を超えていたこともあり、すぐに税理士事務所への転職を決断しました。 Tさんは、一般事業会社で経理部門にいたものの、決済業務にはほとんど関わっていませんでした。さらに、年齢のこともあり、転職活動への不安から転職エージェントのサービスに登録しました。キャリアアドバイザーからは、なるべく多くの求人紹介を受けながら、数多く応募することをすすめられました。
さらに、書類選考を通過した場合は、応募先企業がどんな点を評価し、どんな点を懸念しているかという情報をキャリアアドバイザーと共有。そして、面接時にその点を払拭できる話ができるようにというアドバイスを受けました。一方、第1希望の事務所へは、キャリアアドバイザーが面接前の段階からTさんの意欲と志望度を伝えており、採用を前向きに検討してもらい、見事に内定を勝ち取りました。
<成功のポイント>
・キャリアアドバイザーと行った徹底した面接対策
・転職エージェントから応募先の税理士法人への積極的なアプローチ
引用元:https://zeirishi.mynavi-agent.jp/helpful_mt/2018/11/269.html#Cont1
税理士試験受験者は減少傾向
過去に、税務はAI(人工知能)に奪われるという理由から、「税理士は食えなくなる」という話題が世間を賑わせたことがあります。 その影響を受けてか、税理士試験の受験者数は、平成22年の『75,785人』(『https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.kaikei-meikan.com%2F%3Fp%3D19925&psig=AOvVaw380jnQgcWakTW7ObtnSGi4&ust=1614296057319000&source=images&cd=vfe&ved=0CAMQjB1qFwoTCPj3hsvXg-8CFQAAAAAdAAAAABAZ』)をピークに年々減少し、令和元年度は『41,158人』(『https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.kaikei-meikan.com%2F%3Fp%3D19925&psig=AOvVaw380jnQgcWakTW7ObtnSGi4&ust=1614296057319000&source=images&cd=vfe&ved=0CAMQjB1qFwoTCPj3hsvXg-8CFQAAAAAdAAAAABAZ』)にまで落ち込んでいます。
税理士試験受験者の減少から、税理士を目指す人が減っていることが見て取れます。
会計事務所の大型化と求人数の増加
税理士を目指す人が減少している一方で、会計事務所の採用ニーズは高まっています。というのも、平成13年の税理士法改正で、税理士法人の設立が認められて以降、会計事務所の大型化が進んでいます。
たとえば、最大手の辻・本郷税理士法人の従業員は1,000名を超えています。また、かつては従業員100名弱だった準大手・中堅と言われている税理士法人平成会計社や税理士法人AGS、東京共同会計事務所は、100~300名規模にまで成長しています。
そのため、会計事務所の求人数は全体的に増加傾向にあります。
高まる科目合格者のニーズ
しかし、税理士を目指す人が減少している影響で、会計事務所は人材確保が難しくなっています。
かつて、多くの会計事務所は「税理士有資格者」や「税理士試験3科目以上の合格者」を応募者の基準にしていました。
ですが、それでは十分な人材を確保出来ないため、「税理士試験2科目以上の合格者」や「会計実務未経験者」といったように応募者の基準を下げている会計事務所が増えています。
つまり、以前より科目合格者のニーズは高まっているのです。
以前は、科目合格している転職志望者は、税理士を目指すのを挫折した人と見られ、いい印象を持たれない向きがりました。しかし現在、科目合格は、転職市場で価値のあるステータスに変化しています。
転職を希望している科目合格者は臆せず、志望先に科目合格していることをアピールしましょう。 それが、採用の決め手になることは十二分に考えられます。