司法修習生の給与に関する制度は、紆余曲折があります。
 2001年に廃止された給費制は、2017年に復活しましたが、まだまだ問題点が残されています。

 本記事では、司法修習生の給与に関する制度を振り返りながら、そこから見えてみる問題について触れていきたいと思います。

 

司法修習生の生活

 給与について触れるまえに、司法修習生の生活を説明していきます。それを知ることで、司法修習生の給与の歴史を深く理解できるでしょう。

【生活①】修習資格

 例年11月から約1年間実施される司法修習は、例年5月中旬に実施される司法試験に合格すると受けることが出来ます。

【生活②】配属される裁判所

 司法修習生は、47都道府県の県庁所在地にある裁判所、あるいは東京都立川支部、北海道旭川・釧路支部のいずれかに配属されます。配属先の裁判所は、第6希望まで出せますが、最終決定は最高裁判所が行います。そのため、全く希望しない裁判所に配属される可能性もあります。

【生活③】裁判所での修習内容

 配属された司法修習生は、裁判所の職員と同様、9時に出勤しフルタイムで勤務します。民事・刑事裁判、検察、弁護等の修習も受けます。

■民事・刑事裁判修習

 裁判官の指導を受けながら、裁判の傍聴、原告・被告の主張の整理、判決書の草稿作成等を行います。

■検察修習

 検察官の指導の下、被疑者の取り調べ等の事件の捜査、起訴の判断や証拠の準備等も行います。

■弁護修習

 弁護士に指導を受けながら、法律相談や被疑者・被告人との接見、裁判期日への出席、書面作成等を行います。

【生活④】司法研修所での修習

 10ヶ月の裁判所での修習を終えた後、司法修習生は埼玉県川越市にある司法研修所で、2ヶ月間の修習を受けます。

 地方の修習生は、司法研修所内の寮に入ることが出来ます。但し、入寮人数には定員があるため、希望者全員は入れません。
 寮に入る人は抽選で決められ、溢れた入寮希望者は、司法研修所付近のアパートを借りなければなりません。 以上の修習期間中、司法修習生は修習専念義務があるため、アルバイトは禁止されています。

 

給費制の設立と廃止

 お待たせしました。司法修習生の給与に関する制度の歴史について振り返っていきましょう。
 給与の歴史は、第二次世界大戦後の1947年に制定された給費制が始まりです。給費制が制定された経緯は、以下ように説明されています。

法曹は、国民の基本的人権の擁護にとっての最後の砦である司法制度を支える存在です。このような社会的基盤たる法曹を養成することは国の責務です。そのような観点から、法曹となるべき司法修習生に対して、修習専念義務と兼業禁止義務を課すことによって質の高い修習を実施するとともに、その間無給となる司法修習生に対して、国が責任を持って法曹を養成するという観点から給費制を採用し、生活費を保障して身分を安定させ、質の高い修習を実施しているのです。

引用元:https://www.kyotoben.or.jp/kyuhisei_qa.pdf

 給費制の給付額は204,200円でした。その他に、必要に応じて地域手当や扶養手当、通勤手当、住居手当等もプラスで支給されていました。
 しかし、給費制は、財務緊縮政策(支出を大幅に減らし歳出の規模を縮小する政策)の一環で、2011年に廃止されました。

 

貸与制への移行

 給費制の廃止に伴い、貸与制が制定されました。貸与制では月額180,000~280,000円の貸し付けを受けられるようになりました。
 ただ、貸与制には問題がありました。それは、貸与制を利用すると司法修習の1年間で、約300万円の借金を背負う、ということです。

 司法修習生の中には、法科大学院の在学中に奨学金を借りている方もいます。そのような司法修習生が貸与制も利用すると、貸与金と奨学金の合計額が1000万円を超える人も珍しくありませんでした。
 給費制の廃止が、若手法律家の大きな負担になったのです。
 修習専念義務を負うにも関わらず無給というのは、国内のみならず諸外国の制度を含めて見てみても極めて異例でした。

 そんな厳しい制度が影響し、経済的理由で法曹への道を断念する人が多く、法曹志願者は激減しました。 司法修習生の経済的負担を軽減するよう、給費制の復活が叫ばれるようになりました。

 

修習給付金制度の新設

 その要望を受けて、2017年に「修習給付金制度」が制定され、司法修習生への給付が再開されました。事実上、給費制が復活したのです。
 給費額は一律135,000円です。物件を借りて単身住まいをしている司法修習生には別途で、上限35,000円の住居手当が支給されます。

 

修習給付金制度の課題

 修習給付金制度の制定により、司法修習生のけ経済的負担が軽減されたものの、一方で以下のような課題が残されています。

【課題①】給付額が少ない

 現行の修習給付金制度では月額135,000円が給付されているのに対し、2011年以前の給費制で支払われていた給付額は月額204,200円です。給費制の時より大きく下回っているのです。現在の給付額は、日々の暮らしていくには厳しい額との声が上がっています。

【課題②】貸与制を受けていた方に対する救済措置がない

 また、2011~2016年に司法修習を受けた人は、貸与制が適用されていたため、給費を受けていません。そのため、救済措置をするべきと言われています。  修習給付制度では、貸与制を利用した人の救済については、一切示されていません。