社会保険労務士になるためには、社会保険労務士試験に合格しなければなりません。そして、この社会保険労務士試験は例年、合格率が5~10%と難関になっています。
本記事では、その難関さにも触れながら社会保険労務士試験の概要や勉強法等をお伝えさせていただきます。
社会保険労務士とは
まず、社会保険労務士についてご説明させていただきます。
社会保険労務士とは、企業を構成する経営資源である「人・物・金」のうち、「人」に関する部分を担当するスペシャリストを指します。企業に例えると、社会保険労務士の役割は「総務部・人事部」に当たります。
→総務や人事についてはこちらの記事で詳しく説明をしています。
社会保険労務士の主な業務は、以下が挙げられます。
・社会保険の加入手続
・労働保険料の計算
・企業の賃金台帳作成や確定申告
・労働契約や就業規則の作成等
以上のように、社会保険労務士は書類作成等を通して、労働者の義務や権利をフォローする役割を担っています。
また、社会保険労務士は「社労士」と略称で呼ばれることもあります。
社会保険労務士試験の概要
それでは、社会保険労務士試験の概要について深掘りしていきましょう。
【概要①】試験日程
社会保険労務士試験は、年に1回、例年8月の第4日曜日に実施されます。
【概要②】受験資格
社会保険労務士試験には受験資格があります。受験資格を以下に列記します。
・大学、短期大学、高等専門学校
・大学、高等専門学校で62単位以上の取得
・修業年限2年以上で、かつ、課程修了に必要な総授業時間数が1,700時間以上の専修学校の卒業
・司法試験または司法試験予備試験の合格
・行政書士試験の合格
・厚生労働大臣が認めた国家資格の合格(詳しくはコチラをご参照ください)
・社会保険労務士や弁護士の業務補助に通算3年以上従事
・国や地方公共団体の公務員として行政書士に通算3年以上従事
・労働社会保険諸法令の規定に基づいて設立された法人の役員や従業員として実地事務に通算3年以上従事
以上の他にも受験資格はあります。詳しくは「社会保険労務士試験の受験資格」をご覧ください。
【概要③】試験内容
次は試験の内容について見ていきます。
試験時間
以前は記述式で行われていた社会保険労務士試験は平成12年に選択式と択一式に変更されました。現在もこの選択式と択一式で試験が実施されています。
・選択式とは
1問につき複数の空欄があり、そこに入る語句を、用意された選択肢の中から適切なものをそれぞれ選んでいく形式をいいます。例題をコチラで見ることが出来ます。
・択一式とは
問題に対し、正しいもの(もしくは誤っているもの)を1つ選択する形式のことを指します。例題をコチラから確認出来ます。
なお、試験当日は以下のようなタイムスケジュールで行われます。
<平成28年度社会保険労務士試験のタイムスケジュール>
出題形式 | 試験時間 |
選択式 | 10:30~11:50(80分) |
択一式 | 13:20~16:50(210分) |
出題科目・問題数・配点
試験の出題科目や問題数、配点は、下記の表のように構成されています。
試験科目 | 選択式 | 択一式 |
労働基準法 | 1問(5点) | 7問(7点) |
労働安全衛生法 | 3問(3点) | |
労働者災害補償保険法 | 1問(5点) | 7問(7点) |
雇用保険法 | 1問(5点) | 7問(7点) |
労働保健の保険料の徴収等に関する法律 | 出題無し | 6問(7点) |
労務管理その他の労働に関する一般常識 | 1問(5点) | 5問(5点) |
社会保険に関する一般常識 | 1問(5点) | 5問(5点) |
健康保険法 | 1問(5点) | 10問(10点) |
厚生年金保険法 | 1問(5点) | 10問(10点) |
国民年金法 | 1問(5点) | 10問(10点) |
合計 | 8問(40点) | 70問(70点) |
選択式は80分で8問、択一式は210分で70問解かなければなりません。よって1問当たりに充てられる時間は、選択式で10分、択一式では僅か3分と、非常に少ないです。
社会保険労務士試験は、長丁場にも関わらずスピードを要求されるというのが特徴と言えるでしょう。
また、ここ数年は問題が長文になっているため、全問を解き切ることが難しくなっています。
【概要④】合格基準と救済措置
合格基準は例年、合格発表と同時に発表されますが、基本的には以下が合格基準になっています。
①選択式試験は、総得点24点以上かつ各科目3点以上
②択一式試験は、総得点45点以上かつ各科目4点以上
しかし、試験の性質上、科目によっては例年より難易度が高くなることがあります。すると、合格率が低くなることが考えられます。そこで、合格率を調整するための救済措置という対策が行われます。
救済措置では、合格点が引き下げられます。
一例を挙げると平成25年度の合格基準は、以下のように選択式試験の「労災保険法」「雇用保険料」「健康保険法」に対して、救済措置が行われました。
①選択式試験は、総得点24点以上かつ各科目3点以上(但し、「労災保険法」「雇用保険料」「健康保険法」は2点以上)
②択一式試験は、総得点45点以上、かつ各科目4点以上
【概要⑤】合格率と難易度
一般財団法人安全衛生普及センターでは、平成12年以降の社会保険労務士試験の合格率と難易度が公表されています。
年 択一式試験 選択式試験 合格率 総合・ 合格基準点 科目別必要最低得点 難易度 総合・ 合格基準点 科目別必要最低得点 難易度 29年 45点 4点 (「厚年」→3点) B 24点 3点 (「雇用」・「健保」→2点) B 6.8% 28年 42点 4点 (「常識」・「厚年」・「国年」→3点) A 23点 3点 (「労常」・「健保」→2点) A 4.4% 27年 45点 4点 A 21点 3点 (「労常」・「社常」・「健保」・「厚年」→2点) A 2.6% 26年 45点 4点(「常識」→3点) B 26点 3点(「雇用」・「健保」→2点) C 9.3% 25年 46点 4点 B 21点 3点 (「社常」→1点 「労災」・「雇用」・「健保」→2点) A 5.4% 24年 46点 4点 B 26点 3点 (「厚年」→2点) B 7.0% 23年 46点 4点 B 23点 3点 (「労基・安衛」・「労災」・「社常」・「厚年」・「国年」→2点) A 7.2% 22年 48点 4点 B(注) 23点 3点 (「国年」→1点 「健保」・「厚年」・「社常」→2点) A 8.6% 21年 44点 4点 B 25点 3点(「労基・安衛」・「労災」・「厚年」→2点) B 7.6% 20年 48点 4点 C 25点 3点(「健保」→1点 「厚年」・「国年」→2点) A 7.5% 19年 44点 4点 B 28点 3点 C 10.6% 18年 41点 4点(「労基・安衛」・「常識」→3点) A 22点 3点(「労基・安衛」・「労災」・「社常」・「厚年」→2点) A 8.5% 17年 43点 4点 B 28点 3点 (「労基・安衛」→2点) B 8.9% 16年 42点 4点(「健保」・「厚年」・「国年」→3点) A 27点 3点(「健保」→1点) B 9.4% 15年 44点 4点(「労基・安衛」・「厚年」→3点) B 28点 3点(「労常」・「社労」・「厚年」・「国年」→2点) A 9.2% 14年 44点 4点 B 28点 3点(「労基・安衛」→2点) B 9.3% 13年 45点 4点(「常識」→3点) B 26点 3点(「労基・安衛」・「厚年」・「国年」→2点) A 8.7% 12年 49点 4点 C 28点 3点 C 8.6% (注)
1.「難易度」(A→難度が高い、B→普通、C→難度が低い)は、各年度において受験者から寄せられた復元解答の得点状況による。
2.「択一式」は70点満点(1科目10点満点)、「選択式」は40点満点(1科目5点満点)。
3.平成22年の択一式試験の難易度は「B」であったが、この年は出題ミスが5問あり、受験者に有利な採点が行われたため、問題レベルと比較して、「合格基準点」が高くなった。
引用元:http://www.lejlc.co.jp/license/sharoushi_kijun.html
平成27年のみ合格率が2.6%と、例年より低い結果になっています。救済措置で合格率を調整しているとはいえ、やはりある程度、合格率が上下しているのが見て取れます。
【概要⑥】受験料
9,000円(払込手数料130円は、払込人(受験申込者)の負担)
社会保険労務士試験当日までの流れ
続いて、社会保険労務士試験の申し込みから試験当日までを、流れに沿ってご説明させていただきます。
【流れ①】願書の配布
まず、願書の配付が4月中旬に開始されます。
これは、厚生労働大臣の官報公示(以下「公示」という)「社会保険労務士試験の実施について」の後に配布されます。願書の配付期間は公示後から5月31日までです。
社会保険労務士連合会試験センター(東京のみ)と都道府県社会保険労務士会(47都道府県にあります)から配付されます。
願書の取得方法は次の2通りあります。
取得方法 | 3月上旬~4月中旬 | 4月中旬~5月31日 |
郵送 |
3月上旬から願書の受付を行っています。 4月中旬の公示後に願書は発送されます。 |
5月31日まで受付をしています。翌営業日に発送されます。 |
社会保険労務士連合会試験センター・都道府県社会保険労務士会窓口 | 公示前の受付はしていません。 |
5月31日まで配付しています。 ※社会保険労務士連合会試験センターの営業時間は9:30~17:30です。都道府県社会保険労務士会は各々営業時間が異なるため、全国社会保険労務士会連合会ホームページからご覧ください。 |
なお、電話での受付は行っていません。
【流れ②】試験の申し込み
願書が手元に届いたら試験の申し込みをするために、申し込み用紙への記入をしていきます。特に注意する点についてお伝えいたします。
■写真について
写真についての注意点は、以下の通りです。
・サイズは縦5cm×横4cmで縁なしのもの
・背景は無地
・帽子は被らない
・肩から上を正面から写したものにする
・申し込みの3ヶ月以内に撮影したもの
・試験時に眼鏡をかける場合は、眼鏡をかけた状態で撮影をする
・ピンボケした写真、写真をカラーコピーしたもの等は使用しない
■申し込みの締め切りについて
申し込みの締め切りは5月31日です。締め切り間際の申し込みについては、注意が必要です。
・郵送の場合
遅くても「5月31日消印有効」で郵送をしましょう。それ以降の日付での消印有効では、申し込みの受付がされないので、気をつけてください。
・社会保険労務士連合会試験センター・都道府県社会保険労務士会窓口
社会保険労務士連合会試験センター窓口の受付締め切りは5月31日の17:30までです。
都道府県社会保険労務士会窓口の受付締め切りは、5月31日の営業時間までになります。
■試験科目の免除について
社会保険労務士試験は、実務経験等があると試験科目の一部免除を受けられる場合があります。
主に以下の条件に該当する方は、受験申し込みと併せて申請することで、該当科目が免除されます。
・社会保険労務士事務所もしくは社会保険労務士法人に、社会保険労務士補助者として労働社会保険法令に関する事務に15年以上従事、かつ全国社会保険労務士連合会が行う講習を修了している人
・健康保険組合、厚生年金基金、労働保健事務組合のいずれかの役員もしくは従業員として、労働社会保険法令に関する事務を15年以上していた人
また、上記の他にも免除資格があります。詳しくはコチラをご覧ください。
【流れ③】受験票の送付
受験の申し込みが完了すると8月上旬、自宅に受験票が届きます。受験票には、試験会場が記載されているので、必ず場所や行き方、所要時間を確認しておきましょう。
ちなみに、平成29年度の試験で行われた会場はコチラで確認することが出来ます。
社会保険労務士試験後
社会保険労務士試験が終わると、解答速報や総評、合格発表が以下のスケジュールで行われます。
【試験後①】解答速報
通信講座や予備校では、試験直後に講師陣が解答速報を流れます。早いところでは、試験当日に発表されます。
そのため、通信講座を受講している方や予備校に通っている方は、いち早く答え合わせをすることが出来ます。
【試験後②】総評
ただ、予備校に通っていない方等でも、講師陣が試験の傾向等を総評している動画や記事を閲覧することが可能です。この総評も早くて試験当日から、インターネットで「社会保険労務士 試験 総評」と検索をかけることで見ることが出来ます。
【試験後③】合格発表
合格発表は、例年11月中旬に行われます。前出の通り、合格基準も同時に発表されます。
勉強法
さて、社会保険労務士試験はどのような勉強法がよいのでしょうか。
社会保険労務士試験は「選択式」「択一式」と、どちらもマークシート方式のため用語や数字を問われる問題が多いです。つまり、社会保険労務士試験は「暗記重視」なのです。
暗記には限界があります。よって、どの知識を取り入れるべきか、という見極めがカギになります。そういった意味では、通信講座や予備校が有効と言えるでしょう。
通信講座・予備校
通算講座や予備校は、試験範囲が広い社会保険労務士試験をより少ない学習時間で合格を目指せるように教材やカリキュラムが工夫されています。
そのため、経済的に余裕のある方は、通信講座の受講や予備校への通学がオススメです。
独学
とはいえ時間的制約や経済的に、通信講座や予備校が厳しいという方も少なくないでしょう。そのような方は、独学でテキスト本と過去問本を繰り返すのがよいでしょう。
社会保険労務士試験のテキスト本は、繰り返し読むのがよいです。
過去問本では、「ひっかけ所」を覚えるのが勉強のコツです。そのため、何度も問題を解き「ひっかけ所」をマスターしましょう。
その他、以下の独学法もあります。
■過去問アプリ
最近ではスマホで過去問を解ける「過去問アプリ」というものも登場しています。過去問本を繰り返しやると、毎回同じ順番で問題を解くため答えを覚えてしまいます。一方、この過去問アプリでは、毎回違う順番で解ける「シャッフル機能」というものがあるのが特徴です。
■動画
動画共有サービスのYouTube内で「社労士講座」と検索をかけると、社会保険労務士試験に関して学べる動画を閲覧出来ます。
■ブログ
インターネットで「社労士試験 ブログ」と検索をかけると、社労士が運営しているブログが検索結果に出ます。試験勉強の方法等が書かれているため勉強方法に躓いた時の助力になってくれるでしょう。
独学では「白書」の勉強をしない
社会保険労務士試験は、試験範囲が広いです。そのため、独学の場合も通信講座や予備校のように焦点を絞って勉強するのが肝です。
そこで、本記事では、独学は「白書の勉強をしない」という考え方をご紹介します。
例年、「労務管理その他の労働に関する一般常識」と「社会保険に関する一般常識」の2つの科目から、「労働経済に関する白書(労働経済についての分析)」の問題が1問ずつ出題されます。
白書は、試験2か月前の6月に発売される「法改正・白書対策テキスト」で勉強が可能です。但し、白書の勉強範囲は非常に広いです。例年2問のみ出題される白書のために、膨大な勉強時間を割くことは効率が悪いとも言えるでしょう。
さらに、問題が長文化しており全問を解くことが困難な現在の社会保険労務士試験において、「白書の勉強はしない」という潔さも大切かもしれません。
終わりに
社会保険労務士試験は合格率が低いですが。焦点を絞った勉強によって合格も可能です。そして、試験当日は電卓の使用不可です。勉強する際は、手計算をする癖をつけて慣れておきましょう。
用意された選択肢の中から適切なものをそれぞれ選んでいく形式をいいます。