近年では、企業のコンプライアンスの重要性が高まっていることで、社内で専属として働く弁護士を採用する企業が増加傾向にあります。
一方、弁護士もライフワークバランスを求めて会社に勤める「企業内弁護士」を希望する人が増えているのです。そのような就業形態を「インハウスローヤー」と呼びます。
本記事では、増加中のインハウスローヤーについてご説明させていただきます。
インハウスローヤーとは
インハウスローヤーとは、企業が雇用する専任の弁護士のことを指し、「社内弁護士」といわれる場合もあります。インハウスローヤーは弁護士資格を有しながら従業員や役員として会社に在籍し、法務に従事します。
インハウスローヤーの仕事内容
インハウスローヤーの業務内容は、臨床法務を行う顧問弁護士とは異なり、予防法務や戦略法務を中心に行います。
・臨床法務とは
企業は取引先の倒産やクレームの発生といった問題が発生した場合に、裁判を含めた法的対応を行い、問題を解決しなければなりません。そのような法的トラブルの対応業務を臨床法務といいます。
予防法務
一方、予防法務という職務は、法的トラブルを未然に防ぐための業務を指します。予防法務に従事する弁護士の仕事としては、紛争の発生を予防するために、締結前に契約書をチェックし条項の追加や修正を行ったり、不祥事を防ぐために従業員にコンプライアンス教育を行ったり等が挙げられます。
戦略法務
M&A(企業の合併・買収)が主な業務になるのが戦略法務です。自社がある企業を買収しようと考えた時、買収の手段をどうのようにするかによって手続きや税金等が変わってきます。そういった時に、「会社の現状を理解した上で最もよい手段を検討する」のが戦略法務なのです。
インハウスローヤーの増加
冒頭でも触れましたが、インハウスローヤーの数は年々増えています。日本組織内弁護士協会(JILA)の統計資料によると、インハウスローヤーの数と、その採用企業数は以下の通りです。
年度 | インハウスローヤー | 採用企業数 |
2001 | 66 | 39 |
2002 | 80 | 47 |
2003 | 88 | 50 |
2004 | 109 | 56 |
2005 | 123 | 68 |
2006 | 146 | 81 |
2007 | 188 | 104 |
2008 | 266 | 158 |
2009 | 354 | 209 |
2010 | 428 | 259 |
2011 | 587 | 326 |
2012 | 771 | 458 |
2013 | 953 | 508 |
2014 | 1179 | 619 |
2015 | 1442 | 742 |
出典元:https://www.nichibenren.or.jp/recruit/lawyer/inhouse/about.html
2001年は「インハウスローヤー66人・採用企業数39社」と少数でしたが、2015年には「インハウスローヤー1,442人、採用企業数742社」と、どちらも約20倍に増加しています。
とりわけ、大手金融機関と商社がインハウスローヤーを多く採用しています。
増加している理由は主に以下の3つが考えられます。
【理由➀】企業のグローバル化
1つ目の理由に企業のグローバル化が挙げられます。
近年、企業の海外進出が盛んになり、社内法務の設備が求められるようになりました。具体的には、現地法人の設立、M&A、進出国でのコンプライアンス構築等です。これらに付随した法務を社内で求められることから、英語力のあるインハウスローヤーの採用数が増えているのです。
【理由②】ワークライフバランスを重視する弁護士の増加
2つ目に、ワークライフバランスを求めた弁護士が増えてきたことが理由にあります。
転職サイトMS-JAPANが行った「転職を考えている弁護士に聞いた転職希望先アンケート」によると、このような結果となりました。
有効回答総数:785件
法律事務所のみを希望…126名
法律事務所・インハウス(企業内)のどちらも希望…241名
インハウスのみ希望…418名
このアンケート結果によると、785人のうち418人、実に半数を超える弁護士が転職先にインハウスを希望していることが分かります。
さらに、女性にフォーカスすると、弁護士265名のうち165名がインハウスを希望の転職先としているのです。この割合はなんと62%にまで上ります。これは、出産や育児等のライフイベントが大きく影響していると考えられます。
法律事務所勤務の場合、クライアントが他の弁護士の担当に代わってしまう等といったケースがあることから、産休等の長期休暇を取りづらい状況にあります。
そのため、他の企業で働く女性と同じように、法律事務所で働く女性弁護士も家族の協力がなければ仕事と育児の両立は難しいのです。
一方で、インハウス勤務であれば、福利厚生が整備されており、給与の安定も見込めます。また、労働時間は法律事務所勤務よりは比較的少ないためワークライフバランスを保ちやすいのです。
【理由③】労働時間が安定
3つ目に、インハウスローヤーは労働時間が安定していることが理由にあります。
日本弁護士連合会の調査によると、法律事務所で働く弁護士と、企業で働くインハウスローヤーの労働時間は以下のようになります。
【弁護士の1日の労働時間】
インハウスローヤーは1日8~10時間労働の方が60%近くを占めています。
一方、法律事務所で働く弁護士は1日8時間未満の方が20%近くいるものの、10時間以上の長時間労働をする方が50%を超えます。
このことから、ワークライフバランスを重視する弁護士は、労働時間が比較的安定しているインハウスローヤーを選んだ方がよいことが見て取れます。
以上3つの理由により、企業内弁護士は増加傾向にあります。
インハウスローヤーの年収
前項で触れたインハウス勤務の給与を、法律事務所勤務と比較してみましょう。
日本弁護士連合会の調査によると、弁護士の年収は以下になりました。
【弁護士の年収】
インハウスローヤーは年収500~1500万円の方が60%を超えています。また、年収500万円以下の人は5%を下回っているため、ほとんどのインハウスローヤーが500万円以上の年収であることが分かります。
このことから、企業内弁護士は収入が安定しているといえるでしょう。
それに対し、法律事務所で働く弁護士の年収は、幅広いです。500万円以下、500~1,000万円の年収の方はそれぞれ20%を超えています。
また、2,000万円を超える方がインハウスローヤーに比べて多くいます。収入が多い弁護士がいる一方で、少ない人が多いことから、法律事務所勤務は収入の安定が保障されていないと言えるでしょう。
インハウスロイヤーに求められること
では、企業側はどのようなインハウスロイヤーを求めているのでしょうか。
企業は弁護士としての知識や能力が求めていることはもちろん、社内業務になることからコミュニケーション能力も求めています。さらに、管理職の募集であればマネージメント能力も問われます。
また、インハウスローヤーは、法的知識を提供したり問題の解決をしたりするだけでなく、会社の一従業員として積極的に企業に貢献していくことも求められます。転職活動で、履歴書を書く際や面接時には、企業に貢献出来る点についてもアピールしていくとよいでしょう。
→履歴書の書き方については「こちら」で詳しく説明をしています。
なお、TOEICのスコアが800程度ある方は英語力をアピールしておきましょう。というのも、インハウスローヤーを募集している企業は、海外進出をしていることが多いです。
そのため、グローバルな業務を求められます。英文契約書の翻訳やレビュー等、業務において英語力が必要となる場面も多く、ビジネスレベルの英語能力が募集要項に記載されている求人も多く存在します。
まとめ
弁護士も働き方が多様化して、仕事と育児等の両立を目指してライフワークバランスを重視する人が増えています。そのような人にとって、企業内弁護士への転職は理想の生活を叶える手段の1つかもしれません。
転職を考えている弁護士の方は、ぜひ本記事を参考の1つにしてみてください。
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