弁護士としてのキャリアを積むにあたり、どのようなキャリアを積んでいけばよいのか迷うことはないでしょうか。
数ある法務の中で、ここでは企業法務について、「仕事内容」から「学べるもの」までお話させていただきます。
企業法務とは
企業法務とは、企業が事業活動を行ううえで関わる法律についての業務の総称です。企業活動をするにあたっては、企業の設立や取引、人事・労務に至るまで、あらゆる活動に法律は密接に関わっています。
近年、企業法務は経営上、重要な役割を担っていると考えられています。そのことから従来、法務担当者は総務部や企画部等の中の一部門に属していたものが、現在では、部署の一部から独立した「法務部」を設置する企業が増えてきているのです。
企業法務の仕事内容
企業法務の仕事内容は、大きく分けて以下の5つに分類されます。
➀契約・取引法務
企業法務の中で最も割合を占める仕事が契約・取引法務です。例えば、企業活動に関わる売買契約や秘密保持契約等の条文をチェックする仕事が挙げられます。企業によっては、国内契約だけでなく、海外との契約事項のチェックも行います。
・売買契約とは
所有する財産権を相手方に移すことと引き換えに、先方に契約金を支払ってもらうことで成立する契約のことを指します。
例えば、財産権をもっているAと、その財産権を欲するBがいるとします。Bは、お金(=契約金)をAに渡すのと引き換えに財産権を譲り受けます。この場合に売買契約が成立します。
・秘密保持契約とは
取引中に知り得た先方の営業秘密や顧客の個人情報等を、取引の目的以外に利用したり、他人に開示・漏えいしたりすることを禁止する契約のことをいいます。
②組織法務
組織法務は、企業活動をしていくために欠かせない業務です。定期的に開催される株主総会や取締役会の運営の他、定款の変更や子会社の設立等を業務としています。
・定款とは
会社の根幹となる規則を指します。この規則に記載される内容には、会社の名前(商号)や事業内容、本社の所在地等が主に挙げられます。企業を運営していくうえで重要な指針となるもので、会社を設立する前に必ず作成しなければなりません。
いわば、学校の校則のようなものです。
③臨床法務
臨床法務とは、法的トラブルに対応をする業務のことです。この業務では、取引先の倒産やクレームの発生といった問題が起きた場合に、裁判を含めた法的対応を行い、問題を解決に導くことが求められます。
④予防法務
法的トラブルを未然に防ぐための対応として予防法務があります。例えば、紛争の発生を予防するために条項の追加・修正を行うこと等が業務例に挙げられます。また、従業員にコンプライアンス教育を行い、社員による不祥事を防ぐことも予防法務の目的です。
⑤戦略法務
戦略法務では、企業のM&A(買収・合併)や新製品の開発等においての、法的リスクの分析や効果的な知的財産権の活用方法を提案することで、企業価値を高める意思決定のサポートを行います。
・知的財産権とは
人の知的活動によって生み出された、例えば映画や音楽等の制作物には価値を持つものがあります。そのようなものを総称して「知的財産」と呼ばれています。知的財産のうち、法律で規定されていたり利益に関わったりするものは、権利として保護されなければなりません。これを「知的財産権」と言います。
企業によって異なる法務
お伝えした通り、主に5つの法務を担うことから、企業法務は幅広い経験を積むことが期待出来ます。とはいえ、企業によって担う業務が異なります。弁護士としてどのようなキャリアを積みたいかのよって、転職する企業の選択肢は変わってくるでしょう。
そこで、次は企業の特徴別で「学べること」を見ていきます。
➀大手事業会社→幅広い法務経験を積める
大手の事業会社では、契約法務やコンプライアンスに関する業務が法務担当者に求められます。また、ジョブローテーション制を採り入れている企業が多く、数年ごとに担当分野をチェンジすることから、幅広い法務経験を積むことが期待出来ます。
②金融・不動産企業→専門的知識と分析力が身につく
金融や不動産関連の会社では、金融・不動産に関する法務を学ぶことが出来ます。
SPC(企業が資金を調達する目的等で設立する会社)の設立や、株式や債券等の新商品開発に関する法的なアドバイスといった業務内容等が挙げられます。いずれも、高い専門性と分析力が必要です。
そのため、金融・不動産企業で勤務すると専門的知識と分析力が身につくでしょう。
③ベンチャー企業→幅広い業務と戦略法務
ベンチャー企業の多くは小規模の会社であるため、1人ひとりの業務が分業化されていない傾向があります。それによって法務も幅広い業務を担当しなければなりません。
また、経営スピードが速いベンチャー企業において、法務担当者は新規事業を立ち上げるうえでの法的なアドバイスが求められ、経営者のよき相談役として戦略法務に携わる可能性があります。
④中小企業→総務について学べる
大企業等では法務部と総務部とに分かれています。しかし、中小企業等では総務と法務を兼任する傾向にあります。
兼任業務をこなすことで、総務と法務両方の知識を身につけることが期待出来ます。
⑤外資系企業→語学力を活かした法務経験
外資系企業の法務では、日本国内でのビジネスを成功に導くための法的サポートを行います。そのため、外資系企業の法務スタッフに求められる能力として、日本国内の法務についての理解はもちろんのこと、拠点国と連絡が取り合えるレベルの語学力が必須となります。
したがって、外資系企業で勤務をすると、語学力を活かした法務経験を積むことが出来ます。
⑥海外進出をしている企業→国際的な法務を学べる
日本の企業が海外進出するに際しては、グローバルな活動を法的な面からサポートする法務スタッフが必要です。
海外に企業が進出する以上、進出先の国や地域の商慣習(商業上のしきたり)を扱うことになります。国内とは異なり、その国の歴史や文化に関する理解が重要となります。
よって、海外進出をしている企業に勤めることにより、国際的な法務を学ぶことが出来ます。
また、⑤⑥のような国際法務で活躍しやすい人材の特徴としては、海外のロースクール留学経験や海外弁護士資格を持つ人です。このような人材は、現地の言語、法律、慣習等を学んできているため、国際法務の現場で活躍しやすいと言えるでしょう。
⑦メーカー企業→特許の知識を習得出来る
メーカー企業の法務職に就くと、特許に関する企画立案や契約書の作成・審査等の業務を行います。それらの業務を通して特許についての知識を習得することが可能です。
・特許とは
発明を保護する制度です。国は発明者に対して特許という独占権を与えます。特許事例として、アイスの「雪見だいふく」に含まれる、“冷凍しても凍らない餅”が挙げられます。
企業法務に求められる人材
企業法務の担当者として会社が求めるのは、幅広い法律の知識はもちろんのこと、業界の特性や勤務する会社のビジネス、トレンドをよく理解している人材です。
また、社内外問わずコミュニケーションをとることが大切になってきます。そのため、コミュニケーション能力のある人材も求められています。
まとめ
本記事でご説明させていただいた通り、会社によって担う業務が異なることから、企業法務への転職を考えている方は、あなたのキャリアプランに合った応募先を選択した方がよいでしょう。
その際は、本記事をぜひ参考にしてみてください。