税理士事務所等の求人を見ると、必須資格に「税理士試験科目合格者」や「税理士試験2科目以上の合格者」と載っている求人があります。まるで資格のごとく扱われる「税理士試験科目合格者」とは、一体どういった意味なのでしょうか。
そこで今回は、「税理士試験科目合格者」についてご説明させていただきます。
税理士試験の科目制度
「税理士試験科目合格者」を知るうえで、まずは税理士試験の科目制度について理解しなければなりません。
税理士試験は、科目ごとに受験をする“科目合格制度”を採用しています。全11科目の中から5科目以上を合格すると、税理士資格を取得することが出来るのです。
但し、1回の受験で5科目以上を合格しなければならないというわけではありません。たとえ1回の受験で1科目しか合格しなかったとしても、その記録は生涯有効です。何度か受験する中で、通算5科目以上に合格をすれば、税理士資格を取得することが可能になります。
税理士試験の科目
税理士試験の科目は、「必須科目」「選択必須科目」「選択科目」の3つに分けられています。
➀必須科目
「必須科目」は必ず合格しなければならない科目です。「簿記論」「財務諸法論」の2つがあります。
必須⑴簿記論
税理士は「税務の専門家」です。税務を遂行するにあたって、簿記(企業の活動を帳簿に記録し分かりやすく残しておく技術)は必要不可欠な知識になります。「簿記論」では、その簿記についての知識を身につけることが出来るのです。
必須⑵財務諸法論
「財務諸法論」では、株主や債権者といった利害関係者に、企業の財政状態や成長力を明らかにするための財務諸表について学ぶことが出来ます。財務諸表には、損益計算表や賃貸対照表等が挙げられます。
②選択必須科目
選択必須科目は2つあります。「法人税法」と「所得税法」のいずれか1科目に必ず合格しなければなりません。
選択必須⑴所得税法
「所得税法」では、国民1人1人が得た所得に対して課される所得税について学ぶことが出来ます。所得税は、国税収入額のトップに当たります。そのため、所得税をついての知識を身に付けることは、税務を遂行するにあたっても重要なことです。
選択必須⑵法人税法
「法人税法」は、会社等が事業活動で得た所得について課される法人税についての知識を習得出来る科目です。国税収入額において、法人税は所得税に次ぐ2番目です。そのため、法人税についての知識を習得することは、実務をするにあたっても重要になります。
③選択科目
選択科目には「相続税法」「消費税法」「酒税法」「国税徴収法」「住民税」「事業税」「固定資産税」の7つがあります。これらから2科目を選択する必要があります。但し、「消費税法」と「酒税法」はどちらか1科目しか選ぶことが出来ません。同様に、「住民税」と「事業税」もどちらか1科目のみの選択になります。
選択⑴相続税法
相続税は、相続・贈与等の際に財産取得者に課される国税です。「相続税法」に合格すると、相続に関する税の相談を受けた際に役立ちます。
選択⑵消費税法
商品売買やサービスの提供に対して課税されるものが消費税です。国民にとって身近な消費税について学ぶ、「消費税法」を受験する人は多くいます。
選択⑶酒税法
「酒税法」では、アルコール1%以上の飲料に対して課される酒税について学ぶことが出来ます。「酒税法」は「消費税法」比べ受験者数が少ないです。
選択⑷国税徴収法
申告された国税が納付されなかった場合等に、国は強制徴収をするケースがあります。「国税徴収法」では、強制徴収をするための手続きの必要事項等について学ぶことが出来ます。
選択⑸住民税
都道府県や市区町村が行う行政サービスにかかる諸経費を住民に負担してもらう「住民税」について学習出来る科目です。
選択⑹事業税
法人または個人の事業活動に対して課される「事業税」についての知識を身につけることが出来ます。
選択⑺固定資産税
「固定資産税」では、固定資産の所有者に課税される地方税の知識の習得が期待されます。
税理士試験(各科目)結果データ(合格率等)
次に、各科目の合格率を見てみましょう。
受験者 | 合格者 | 合格率 | ||
必須科目 | 簿記論 | 13,936 | 1,753 | 12.6% |
財務諸表論 | 11,420 | 1,749 | 15.3% | |
選択必須科目 | 所得税 | 1,891 | 253 | 13.4% |
法人税 | 5,642 | 655 | 11.6% | |
選択科目 | 相続税 | 3,636 | 454 | 12.5% |
消費税 | 8,508 | 1,104 | 13.0% | |
酒税法 | 669 | 84 | 12.6% | |
国税徴収法 | 1,481 | 171 | 11.5% | |
住民税 | 549 | 64 | 11.7% | |
事業税 | 566 | 73 | 12.9% | |
固定資産税 | 947 | 138 | 14.6% |
どの科目も合格率は10~15%に留まり決して高いとは言えません。そして、1回の受験で5科目以上の合格をする人の割合は2.1%という、非常に低い確率になります。この低さからも分かる通り税理士資格を取得するということは、非常に難易度が高いことなのです。そのため、多くの人は複数回受験をして税理士資格の取得を目指します。
ここで登場するのが「税理士試験科目合格者」なのです。
税理士試験科目合格者とは
「税理士試験科目合格者」を必要資格としている求人では、「1科目以上」もしくは「2科目以上」の合格を条件にしているケースが多いです。
なぜ1,2科目でよいのでしょうか。これは、1つ1つの科目に資格としての価値があるためです。科目に合格していることは、会計や税務等についての知識があるという証明になり得ます。
科目合格の価値
それでは科目合格の価値について、「科目ごとの価値の違い」と「近年における科目合格者のニーズ」に分けてお伝えいたします。
科目ごとの価値
科目合格の価値は科目によって以下のように異なります。
簿記論と財務諸表論
簿記論あるいは財務諸表論に合格をしていると、決算書の作成や分析業務を行うことが出来ます。そのため、会計・財務の専門知識の取得者として、一般企業の経理・財務部門への転職に有利となります。
履歴書作成の際は「〇年×月 税理士試験(簿記論)合格」といったように書くと十分にアピール出来るのです。
所得税法と法人税法
所得税法と法人税法に合格していると、確定申告の代行業務を多く引き受けている会計事務所への転職に有利に働く可能性があります。
相続税法
相続税法に合格していると、不動産や株式等の資産管理・成年後見を行う会計事務所への転職に有利になります。というのも、例えばクライアントに節税対策を提案する際、相続税の知識を有した人材がいると会計事務所にとっては大きな力になるためです。
近年における科目合格者のニーズ
かつて、会計事務所では「税理士有資格者」や「税理士試験3科目以上の合格者」が多く採用されていました。
ですが近年では、「税理士試験2科目以上の合格者」や「会計実務未経験者」等が採用対象者になっています。ハードルが低くなっている一方で、科目合格者のニーズが高まっている傾向にあると言っていいでしょう。
つまり、科目合格者の価値は上がっているのです。
年収に関わってくる科目合格数
科目に合格していることは転職に有利に働くだけではなく、年収にも大きく影響します。
転職サイトのMS-Japanが行った「税理士科目合格者の年収水準調査」によると、以下のような結果になりました。
2012年度 | 2015年度 | ||
税理士試験の合格科目数 | 年収水準(万円) | 税理士試験の合格科目数 | 年収水準(万円) |
1科目 | 280~330 | 1科目 | 280~330 |
2科目 | 330~380 | 2科目 | 330~380 |
3科目 | 380~430 | 3科目 | 380~450 |
4科目 | 430~480 | 4科目 | 450~490 |
5科目 | 500~550 | 5科目 | 550~600 |
以上の表を見ると多くの科目に合格している方が高年収です。これは多くの科目に合格している程、幅広く専門知識を有しているという証明になるためと考えらます。
また、興味深いのが、2015年度の3科目以上の合格者が2012年の年収水準に比べ、総じて高くなっているという点です。
一般的に、年収水準が高くなるという時は人材が不足している時期でもあります。そのため、経験値や能力が高い人には内定が出やすいという傾向にあります。
そのため、求職者に有利な転職市場である今、3科目以上に合格していることは、キャリアアップと年収を上げることを同時に実現させることも夢ではないかもしれません。
各科目の勉強時間
税理士試験は科目ごとで必要な勉強時間が異なります。某税理士通信講座が公表している「各科目の勉強時間の目安」では以下のようになっています。
科目名 | 平均勉強時間(目安) | |
必須科目 | 簿記論 | 450時間 |
財務諸法論 | 450時間 | |
選択必須科目 | 所得税 | 600時間 |
法人税 | 600時間 | |
選択科目 | 相続税法 | 450時間 |
消費税法 | 300時間 | |
酒税法 | 150時間 | |
国税徴収税 | 150時間 | |
住民税 | 200時間 | |
事業税 | 200時間 | |
固定資産税 | 250時間 |
以上の表を見る限り、必須科目や選択必須科目は必要な勉強時間が多い傾向にあります。とはいえ、ある程度仕事で税務に関わったことがある人は平均の勉強時間より少なく済む可能性も考えられます。
まとめ
税理士試験は、科目合格制度を採用していることから在学中に1科目、社会人になって働きながら4科目に合格を目指すということも出来ます。そのような方にとって、科目合格を必要資格としている職場は、実務をこなしながら税務について学ぶことが出来ます。そのため、働きながら税理士資格取得という夢に近づけると言えるかもしれません。
近年、税理士試験科目合格者の価値は高まりを見せています。税理士資格の取得を目指している方は、「税理士試験科目合格者」を必要資格にしている求人を転職先の選択に入れてみてはいかがでしょうか。