弁護士の経歴といえば、従来は法律事務所に所属し経験を積んだのち、パートナーや独立を目指すというのが一般的でした。

・パートナーとは

 法律事務所に雇用される立場ではあるものの、事務所の所長と同格とされる地位にある弁護士のことです。大手の法律事務所では、経営に関する判断をパートナーが担っています。

 しかし近年では、インハウスロイヤー(企業で会社員として雇用されて働く弁護士)や、あえて独立せずに法人化された法律事務所で勤務し続ける等、弁護士の働き方が多様化しています。
 これは、ライフワークバランスを重視する弁護士が増えてきたことが理由の一つとして挙げられます。実際にインハウスロイヤーは増加しており、2004年は109名だったのが、2014年には1266名にも上り、実に11倍の増加率を見せているのです。

 このようなキャリアの築き方の変化に伴い、弁護士の転職の幅も広がりを見せています。ここで、転職をする際に重要となるのが、職務経歴書に記載する「自分がどんなキャリアプランを築きたいのか」「どんな生活を送りたいのか」ということです。

 そこで今回は、転職を考えている弁護士に向けた「職務経歴書」の書き方についてお伝えさせていただきます。

職務経歴書作成前にすること

 よい職務経歴書を作成する前に次の作業をする必要があります。

・スキルの棚卸し
・キャリアプランの明確化
・企業と法律事務所どちらに転職するかを決定する

1つずつご説明させていただきます。

【作業①】スキルの棚卸し

 転職を成功に導くためには、まず「スキルの棚卸し」という作業が欠かせません。
 スキルの棚卸しとは、自身の過去を振り返り、これまでの経験をリストアップすることをいいます。

 どのような環境・分野で何年働いてきたのか、そこから何の知識を得たのか、成功や失敗から学んだこと等を、以下の画像を参考に表にしてまとめてみましょう。

 年月 所属部署と職種・職名 職務内容 具体的な業務内容・仕事への関わり方・得た能力や成果など 好きか嫌いかとその理由
1991年4月 第●営業部 既存顧客への営業 既存のクライアント様を回り、現在の課題やニーズを聞く営業。
担当時の売上が25%近く増加。 
◎ お客様との関係構築、問題解決で喜ばれる。
    顧客問合せ対応  電話問合せやクレーム対応。この経験から、お客様のニーズのヒアリング、それによる問題解決への提案などを覚えました。 ✕ デスクワーク・クレーム対応ばかりで気が滅入りがち 
    新規顧客の営業開拓  顧客のニーズを聞き出し、企画提案営業をする。新規契約は月4件前後。
そこで契約に至ったクライアント様は、有数の大手顧客に成長。
○ 新規のお客様への提案がしっかり当たるとやりがいがある。
1997年4月 営業管理部に移動 商品の品質管理 商品開発における技術調査・マーケティング業務。営業サポート・支援などを行う部署。 △ デスクワーク中心でお客様とコミュニケーションが取れないのが不満
2000年4月 新規事業部に移動 新規事業の立ち上げ 新規事業の企画・マーケティング。企画が承認され、プロジェクトリーダーを任される。
外部とのアライアンス先を選定し、順調に進行中。
◎ 企画を考えるのが楽しい。
外部との交渉、人脈が拡大し刺激を受ける。

 次に、棚卸しした表を基に、自身の強みと弱みを把握する作業に進みます。以下の3つのカテゴリーに分けて、自分自身を理解していきましょう。

⑴ヒューマンスキル

 ヒューマンスキルとは、他者との良好な人間関係を築くために必要な能力のことをいいます。対人関係能力とも言われており、ビジネスパーソンであれば必ず求められるスキルです。クライアントと接する法律事務所では特に重視されます。

⑵テクニカルスキル

 テクニカルスキルとは、業務を行う上で必要な知識や経験のことを指します。即戦力としての採用が多い30代以上の方は、特にテクニカルスキルが求められます。

⑶コンセプチュアルスキル

 コンセプチュアルスキルとは、物事の本質を的確のとらえる能力のことをいいます。概念化能力とも言われています。コンセプチュアルスキルを持っていると、個人や組織の持つ可能性を最大限に高めることが出来ます。

 これら3つのスキルを以下の画像を参考に自分自身を評価してみて下さい。

テクニカルスキル 1. 業務遂行 自分の仕事の質の向上を常に意識している 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
2. パソコン活用 パソコンを仕事で活用できる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
3. 語学力 外国語で意思疎通ができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
4. 情報収集力 自分の仕事に関心を持ち、適切な情報を得ることができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
ヒューマンスキル 5. プレゼンテーション 自分の考えや主張を明確・効果的に表現し、相手を納得させることができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
6. コミュニケーション 周囲の人との意思疎通ができ、コミュニケーションを円滑にできる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
7. 対人影響力 仕事に関係する人々にやる気を与え、目標達成の方向にまとめていける 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
8. メンタルマネジメント 仕事に対して常に客観的かつ冷静な判断を下し、安定して課題を達成できる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
コンセプチュアルスキル 9. 計数管理能力 常にコスト意識を持って仕事をしている 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
10. 時間管理能力 優先順位を考えて、時間を有効に使うことができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
11. 問題解決能力 問題意識を持ち、問題発見・解決することができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
12. 創造性 独自の考え方や発想に基づいた提案ができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
13. 課題達成力 目的と成果を明確にし、期限までに課題を達成することができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
14. 変化対応力 環境の変化を意識し、新しい状況にスムーズに対応することができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)
15. 経営企画力 社会情勢に関する見通しができ、ビジョンを明確にすることができる 1~5で自己評価
(低い:1~高い:5)

出典元:http://www.self-lifedesign.com/seminar/career-plan04.html

【作業②】キャリアプランの明確化

キャリアの棚卸しで自分自身の理解が深まったところで、次の段階であるキャリアプランの明確化をしていきましょう。
 キャリアプランとは自身の経歴において、将来どうなりたいかという目標を持ち、それに向けて計画を立てることを指します。
 キャリアは生活と密接な関わりがあるため、ライフプランも合わせて考えることで、より具体的なキャリアプランを立てることが可能になります。

 例えば以下のようにプランを練ってみましょう。

・15年後は子供が大学に入学する年だから、年収は700万円以上欲しい

・家族との時間も大切にしたいから、ライフワークバランスを取りやすいインハウスロイヤーとして、国際法務に関わる業務に携わりたい

 上記の例のような目標の立て方が出来れば、5年後・10年後のために何をすべきか、それには今後どのようなスキルを身に付ける必要があるのか等、逆算したキャリアプランの実現が可能になります。

 また、構築したキャリアプランが現実的であるかどうか、以下の2点を客観的にチェックしてください。

・現在自身が持っているスキルとの差がどれくらいあるのか

・その差は、これから経験を積むことで埋められる範囲のものであるのかどうか

【作業③】企業と法律事務所どちらに転職するかを決定する

 現実的なキャリアプランが完成したら、今度は企業と法律事務所どちらに就職するかを決めましょう。
 冒頭でも触れましたが、ライフワークバランスを重視する弁護士は企業への転職、つまりインハウスロイヤーを希望する傾向にあります。

  一方で従来のように法律事務所で経験を積み、ゆくゆくは独立をするというキャリアを歩む弁護士もいます。しかし最近では、あえて独立せずに法人化された法律事務所で勤務し続けるという弁護士も増加しています。
 いずれも、先ほど決めたキャリアプランにあった方を選んでください。

 

ポイントを押さえて職務経歴書を作成する

 これまで説明したきたことを実践し職務経歴書に反映させれば、転職が成功に導かれる可能性は飛躍的に伸びるでしょう。
 作成に取りかかるまえに、まず職務経歴書の役割を知る必要があります。この役割と書くべきポイントを押さえておけば、応募先が求めている情報と自身のアピールポイントの伝達を漏らすことはありません。

 職務経歴書の役割は、企業や法律事務所が求めるスキルや経験を、応募者が持っているかどうかの確認をする書類です。面接時においては、職務経歴書に書かれた内容を中心に聞かれます。

 即戦力を期待される弁護士にとって、自身のスキルや経験をアピール出来る職務経歴書はとても重要です。自身でフォーマットから考える必要があるため職務経歴書は、書類作成能力やプレゼン能力等のビジネスマンとしての手腕が問われます。

 しかし、フォーマットを作成することに自信がない方は、ネットに載っているテンプレートや市販の職務経歴書を利用することも一手です。
 また、職務経歴書を作成する際は、以下のポイントを押さえておきましょう。

・企業が求めているスキルや経験を、自身の経歴でカバー出来ていること
・応募先の業務内容に関連した自身の強みを述べること
転職の理由が妥当であること

 事務所によっては、履歴書や職務経歴書の他に、司法試験の結果表、ロースクールの成績表等の提出を求められることもあります。そのため、これらも事前に準備をしておくと転職活動がスムーズにいくでしょう。

 

まとめ

 以上、弁護士の転職を成功へ導く職務経歴書の作成についてお伝えさせていただきました。
 冒頭でもお伝えした通り、「どんなキャリアプランを築きたいのか」「どんな生活を送りたいのか」等、自分を知ることで転職は成功に近づいていくのです。

 ぜひ、本記事に書かれている内容を実践して、実りのある転職活動にしていただけたら幸いです。

 また、本サイト「SEEK」ではみなさんの転職の手助けをするために、求人情報サービスも行っています。弁護士の求人については下記からをご覧ください。

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